2011年9月23日金曜日

よるはなす 2


そうだ きみは
泣く魚がいることを知っているかい

オホーツク海をすごい数の群れで遊泳する
マイワシのなかに ごくまれにいる
百万匹に一匹ぐらいの割合でね

生まれつき彼は泣く機能を持っている
天才なんだ

仲間たちにまぎれて泳ぎ続けながら
彼は開きっぱなしの眼からずっと涙を流しつづける
でも 誰もそのことに気づかない
彼の涙は海水と同じ濃度だから

僕はおとつい 糸魚川漁港の埠頭で
水揚げされた彼を見つけたんだ

彼は横たわって 曇り空を見上げていたけど
籠に乱暴に押し込まれて どこかへ消えた

うん もちろんぜんぶ嘘だ
僕には語るべきことなんてなにもないんだから
三分前にもそう言ったよね

それにしても
ここは どこなんだろうね

誰にも見られないもの
誰にも知られないもの
誰にも語れないもの

そんなものに価値なんてないんだ
たとえ僕が泣く魚の夢を見たとしても
夢の終わりはいつも加工工場さ

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