2011年9月24日土曜日

ある音楽のための十六のレビュー


■ステキ!


曲名もわからないのだけれど
イントロから惹き込まれました。
とっても神秘的な響きがする曲です。
ビブラフォンのソロが素晴らしくきれいです。
ただ、途中にノイズみたいなのが入っているのが残念。
古い曲なのでしょうか?


■あまりにも先鋭的な…


あまりにも先鋭的なアーティストの遺作となった、短い鮮烈な曲。
わずかな音数のあいだの沈黙に込められた、膨大な意味。
世界中でフィールドワークを行い、数十回の変貌を遂げた
変幻自在の作曲家が、最後にたどりついた境地が
2分50秒から55秒の間に現れる。
窒素ボンベからエアが抜ける音ではないかと私は推測しているが
不思議な音が、玄妙なハーモニーを奏で
涅槃の響きを鮮烈に伝えてくる。


■聴いてはいけない


あまりにも危険な音楽ですよこれ。ヤバイなんてもんじゃない。
ラジオから流れてきたら世界中で皿や花瓶が割れるね。手から滑り落ちて。
不吉すぎますこのグルーヴ。とくに声。あの声。
ほんの一瞬しかきこえないけど、あんなに醜い声は聴いたことがない。


■↑の誇大宣伝に注意


上のレビューの大仰な物言いに興味もっちゃって、聴いてみたよ。
水の音がしてるだけじゃん、これ。
それも水道水が流しの桶からこぼれる音じゃん。だまされた!


■世界をくるむ音


わずか3分3秒しかない曲とは信じられない。
曲は可聴域ぎりぎりのバスクラリネットの低音からはじまり
まるで大伽藍を形作るように、幾何学的に音が展開する。
その伽藍の中には世界中が入るかもしれない、そんなことを思わせる。
惜しむらくは、この美しい音の建築の中に、人間のにおいがしないこと。
管楽器が使われているのに、人間の息の痕跡はまるでないようにきこえる。
まるで太陽系外の音楽のようだ。


■なんでバラバラなの?


なぜ、みんな言ってることがバラバラなのでしょうか?
ていうか、このレビューそのものが冗談?
いったい、問題のその曲は実在するの?


■聴くことができない音楽


この曲は実在する。私が保証する。
ただ、上のレビューはぜんぶ嘘だ。
なぜなら、楽譜としてしか残っていない音楽だから。
いまだかつて、一度も演奏されたことはないはず。
少なくとも私が知るかぎりでは。


■そんな馬鹿な


ならば、いま僕が聴いているこの曲はなんなんだ。
杏仁豆腐のようなぷるぷるした空間が、音と音の間をみたす
奇跡のように苦くて、ぐにゃぐにゃなこの曲は!
この曲は実在しているよ。だって、僕の耳元で鳴っているもの、いま!


■別サイトの公式レビュー


拾ってきたよ。これで決着するだろ。


<…音楽史に、他に例をみない
異様な姿を残しているモニュメント的な作品。
音で物質を形作るという、およそ常識離れした離れ業に成功している。
作者によれば、そこで「音的物質」としてこの世に誕生しているのは、
全長10センチほどのロボット犬であるという。
じっさいこの曲を聴いていると、背中の金属のひんやりした手触りと
かすかなモーターの震動が如実に感じられるのだ。
これは怖ろしい経験で、曲の後半で犬の短い吠え声が聞こえたとたん
音楽の深奥に取り込まれて、思わず悲鳴を挙げそうになることだろう。
圧巻の3分3秒である。>


■……………


ロボット犬?


つーかどこだよそのサイト。検索しても検索しても
そんなテキストは見つからないぞ。


■3分3秒


音楽というのは煎じ詰めれば時間なのだから。
時間は物質にはならない。
これは3分3秒ある。それだけが真実だ
と、ジョン・ケージなら言うだろうね。


■ふざけんな


俺は夢を見た。いや、夢を聴いた。
思い出せない夢のかけら、それが音楽だ。この曲なんだ。
だが、この曲とはなんだろう?
俺はいま、その曲を聴くことができないのに。


とにかく、ふざけんなおまえら。


■かすかなノイズが


私の耳にずっときこえているけれど、それは
あきらかにニンゲンが作ったノイズみたいだ。
音楽とは、ニンゲンが作ったものでしょ。
だから、私がききつづけているこれが、この曲なんです。
山でもなく川でもなく猫でもなく鳥でもないんです。
なにかが私にささやいてくるけど
なにかが私にむかって世界をかなでているけど
私にはわからない。意味が。その意味が!
ニンゲンがつくったものなのに。


■ほんとうに?


○短い曲らしい。3分3秒。
○音数は少ない、シンプルな曲らしい。
○あまり陽気な曲ではないらしい。
○一瞬だけ声が聞こえる。
○ビブラフォン。管。窒素ボンベ。
○水の音。震える杏仁豆腐。ロボット犬。


ねえ、ほんとうに
私もいつか
その曲を聴くことができるのでしょうか。


■いつか


いつか聴けるよ、と彼は言った。
いつか聴きたいね、と彼女は言った。
3分3秒。音楽の大伽藍にしてロボット犬の歌。
それを聴きながらあらゆる人は皿を割る。


音楽をいかにして他の音楽と区別する?
ささやきをどんな方法で他のささやきと聴きわける?


名札を持たない音楽のために
名札を持たない聴き手は
がらんとした期待の中で耳を澄ます。
いつまでも。


だがそれは僕には関係のないことだよ。
ただ僕は、道を歩き出して
パチンコ屋から流れる猥雑な歌を聴きながら
世界に溶け込むように口笛をふいて
まだ聴かれたことのない3分3秒のことを忘れるんだ。


…………


■カップ麺をゆでるのに重宝してます


聴き終えるとちょうどいい具合になってるんですw

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